新刊短評 『History of Wine 100 Bottles』 Oz Clarke


posted by 立花 峰夫 2015.11.28


オズ・クラークというワインライターは多産な人で、あれこれいろんなテーマの本をどっさり書いてきました。「イギリスで最も愛されるワインライター」だそうですが、何を根拠にそういう称号が与えられているのかは知りません。テレビの仕事とかも沢山やっているからですかね。

日本語になっているのは、私の知る限り一冊だけ、比較的どうでもよいガイド本だったと思うので、日本での知名度はいまだにさっぱりでしょうね。とにかくやたらと著作が多いので、私が読んだのは彼の仕事のうちほんの一部に過ぎませんが、才能ある方だと思います。New Classic Wineという、1990年代の初めに出た本なんてよかった。「新世界の古典派ワイン」というコンセプトは、当時とても新しかったのです。ブドウ品種本も、ジャンシスのWine Grapesが出るまではいいリファレンスでした。

そのオズ爺が今年の春に出したのが、『History of Wine in 100 Bottles』という本。発売後は結構書評が出て注目が集まっていましたが、たしかに良書です。

http://www.amazon.co.jp/History-Wine-100-Bottles-Bordeaux/dp/1454915617/ref=sr_1_10?ie=UTF8&qid=1448001594&sr=8-10&keywords=oz+clarke

ワインの歴史上、エポックメイキングだった銘柄・ヴィンテージを100本選び、エッセイ風の短い章で紹介した本です。ワインの曙から最近の話題まで年代順に並んでいるのですが、どこから読んでもかまいません。頭から順番に読むと、「エピソードでつなぐワインの歴史」が頭に入る感じです。残念ながら、ページをめくる手が止まらなくなったり、読んでいると鼻の奥が興奮のあまりきな臭くなったり、といったことはないのですが、「ワインの一般教養」として、プロや熱心な愛好家が知っておくべき話題がおおむね網羅されているように思います。こういうコンセプトの本は、これまでありそうでなかったような気がするのです。

目下、翻訳に取り組んでいる本がなく、「いいの」を探し中状態が結構長いあいだ続いているのですが、このオズ本は「やろうかな」とかなり悩みました(もちろん、私がやる気になったところで、版元が見つからないとダメなのですが)。結局、「うーん、やっぱりパス」と、手を挙げるのを止めたのですが、いまも時々思い出してはぐじぐじ考えてはいます。

グルジア、ギリシャ、エジプト、フェニキア、ローマ・・・と、おなじみの道筋をたどってエピソードが続くのですが、100章のうちの約半分は1950年代以降です。下記が1950年代以降の章題一覧ですが、なかなかコンパクトにまとまったワインの現代史かなあと(ときどき、「これはいらんやろ」という章もありますが)。こういうコンテンツ、ワイン学校の生徒さんや、ソムリエ協会資格の受験生の課題図書にするといいのになあと思います。ヒュー・ジョンソンの「ワイン物語」とかぶるところは多いですが、こっちのほうが気軽に読めるのと、1980年代後半以降のトピックが入っているのがよろしいかと。ワインの一般教養、プロでもアマチュアでもとても大事だと思うのです。「ディジョン・クローンの第一世代は・・・」とか、そういう話題をスカしたワインバーで語るようになる前に、まずはこういうベーシックを知って、歴史的なパースペクティブをもたないといけません。

1951 グランジ・ハーミテージ
1952 バルカ・ヴェーリャ
1950~1960年代 ボルドー効果
1960 J・ボランジェ 対 コスタ・ブラヴァ・ワイン・カンパニー
1961 コンスタンティン・フランク
1963 ガラス瓶のない未来
1963 トーレス・ヴィーニャ・ソル
1964 ガロ・ハーティ・バーガンディ
1965 バッグ・イン・ボックス
1966 クリスティーズのマイケル・ブロードベント
1966 ロバート・モンダヴィとナパ再生
1967 ワシントン州
1968 殻を破ったイタリア
1960~1970年代 ブルゴーニュ効果
1970年代 レツィーナ
1970年代 ワイン・ブランド
1971 ドイツワインの格付け
1974 ボージョレ・ヌーヴォー
1975 アイリー・ヴィンヤーズのピノ・ノワール
1975 ホワイト・ジンファンデル
1976 バーバーズヴィルのカベルネ・ソーヴィニョン
1976 パリスの審判
1978 パーカーの点数
1979 オーパス・ワン
1980年代 品種名のラベル表示
1982 ボルドーの1982年ヴィンテージ
1983 モンタナ・マールボロ・ソーヴィニョン・ブラン
1985 世界一高価なボトル
1987 セントラル・オタゴ 世界最南端
1987 空飛ぶ醸造家
1980~1990年代 国際派醸造コンサルタント
1990年代 カベルネの世界征服
1990 ロイヤル・トカイ
1991 ガレージストの台頭
1991 カナダのアイスワイン
1993 合成コルク
1994 カテナ・マルベック
1998 ナイティンバー
2000年代 世界最北のブドウ畑
2000年代 自然派ワイン
2000 スクリューキャップ
2001 ジンファンデル
2004 ベルリン・テイスティング
2006 世界で最も高いブドウ畑
2010 最果てのアタカマ
2011 中国
2014 贋作~ルディ・クルニアワン